レコメンド&レポート

-潟をめぐる冒険-
石川直樹写真集「潟と里山」

September 4, 2015

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新潟では現在、越後妻有(十日町・津南町)での「大地の芸術祭」(9月13日で終了)、 新潟市では「水と土の芸術祭」(7月18日から10月12日まで)と2つの芸術祭が開催されています。

今回は新潟市の水と土の芸術祭2015に合わせて発刊された、石川直樹氏の最新写真集「潟と里山」を紹介します。

私見を申せば、石川直樹氏というと「Makalu」をはじめとしたヒマラヤシリーズや土門拳賞を受賞した「CORONA」が有名だと思うのですが、今回の写真集は名前の通り新潟の西蒲区に広がるちいさな「里山」や「潟」にスポットを当てたものです。

※画像からは分かりにくいかもしれませんが、表紙には写真集に掲載されている中の1枚の写真が貼り込まれています。全部で4種類。

潟と里山
潟と里山
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石川 直樹 椹木 野衣
青土社
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過去作によくみられた壮大なスケール感や大自然のイメージとは全く違うアプローチですが、石川氏がこの土地の自然と向き合い撮影を進める上で気付かされた歴史や、心を動かされた風景や体験が反映された作品という印象を受けました。

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石川氏のwikipediaを参照すると、「行為の経験としての移動、旅などをテーマに、作品を発表し続けている。」とあります。石川氏は、「写真家」と紹介するよりも人類学・民俗学の領域を”写真を通じて”研究し続けている、 冒険家と表現した方が合点がいきます。

内容はこの土地で暮らす人々の生活に根ざした写真や風景を中心に構成されているのですが、中でも私が特に興味を持ったのは、今でも角海浜に今でもみられる数十年に一度、波によって海岸のあらゆるものを腐食させ削り取っていく「マクリダシ」と呼ばれる現象です。

本写真集のなかにはその「マクリダシ」の猛威によってえぐられたコンクリート道路の様子など生々しく捉えられています。
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「マクリダシ」によってえぐられた角海浜(かくみはま)沿いの道路。現在は東北電力の所有地となっており、許可を取らなければ立ち入ることはできない。

本写真集を語る上で欠かせない人物のひとりに西蒲区福井で60年以上にわたりこの土地の人々の営みを 撮影し続けてきた齋藤文夫さんという郷土研究家がいます。

齋藤氏は今回の写真集の巻末で「郷土からのまなざし」として、掲載されているほぼすべての写真に対して 「この写真は○○年頃のあの場所だね」、と当時を思い出すようにしてつらつらとコメントを寄せています。

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巻末インタビューの編集は、新潟で地域の歴史や土着文化の調査やシンポジウムなどの活動を行っている「bricole(ブリコール)」によるもの。

この頁によって、本作品を通して石川氏が撮影してきた風景の歴史の検証としてより写真そのものが持つ意味の厚みを増し、読み手にも大きな説得力をもたらしてくれます。
これは肉体的な冒険とは異なる「知」と「経験」を持ってしての「感覚的な冒険」として捉えることができるのではないでしょうか。

各写真の撮影地リストも掲載されているので、この写真集を手にしてかつての土地の記憶を想像しながら撮影地に出向いてみるのも、楽しみ方のひとつかと思います。

 

「石川の写真は、なぜ風景がそう呼ばれて来たのかを、新潟の風土のなかから抽出し、連携させることで、 人と大地と水と風が交錯する異次元の集合体としての潟=風景を、いつのまにか前景に浮かび上がらせている。 ——椹木野衣」

 

よくよく考えてみれば本芸術祭のテーマは
「私たちはどこから来て、どこへ行くのか」。

「潟」というキーワードに気を取られていたものの、 写真集を通してテーマを改めて頭に浮かび上がらせるというあたらしい体験をした一冊でした。

石川氏の写真そのものにも、新潟あるいは西蒲区周辺の歴史や文化の成り立ちに 興味のある方も是非手にとってみてはいかがでしょうか。

 

また、9月5日(土)には水と土の芸術祭関連のイベントで、写真集の舞台にもなった新潟市西蒲区は岩室にある観光施設「いわむろや」にて、石川直樹氏のトークショー&サイン会も行われるとのことです。

●石川直樹『潟と里山』出版記念トーク&サイン会
2015年9月5日(土)13:00~(1時間程度)
入場無料・申し込み不要 定員50名
お問い合わせ先:025-226-2628
(水と土の芸術祭2015実行委員会 担当:斎藤)

 

石川直樹(いしかわ・なおき)

1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。 人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最近では、ヒマラヤの8000m峰に焦点をあてた写真集シリーズ『Lhotse』『Qomolangma』『Manaslu』『Makalu』(SLANT)を4冊連続刊行。最新刊に写真集『国東半島』『髪』『潟と里山』(青土社)がある。
(石川直樹氏のオフィシャルサイトより抜粋)

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