9月初旬、軽井沢。
避暑地と言っても日中はまだ汗ばむ気候の中、日本画家、千住博(せんじゅひろし)氏の美術館に足を運びました。
千住氏は95年第46回ヴェネツィア・ビエンナーレで東洋人として初めて名誉賞を受賞。
受賞作である「The Fall」で一躍世界に名を広めました。
その「The Fall」をはじめとする氏の作品は、鑑賞するというより自然そのものの中に身を置いているような感覚。
圧倒的な迫力と静寂の中で、穏やかに時間だけが過ぎてゆきます。
滝や崖を描き続ける氏の、宇宙や自然、私たちが生きていることについて語られる言葉が印象的です。
「137億年前に突然できた宇宙。数え切れない爆発や衝突でできた岩石を使い、
絵を描いていることの奇跡。
予測できない、手に負えない自然を経験することは現代人にとって大切なこと。
なんでもコントロールできると思うことに大きな過ちの発端がある。」
さらに、
「芸術的発想(イマジネーション)が弱まった現代の人間の存在は危機。
エリートが作ってきたこの世界は今、人の心が不在になっている。」とも。
中でも印象に残ったのが、
「大作にはほとんどサインをしていない。誰の絵だと思われてもかまわないと
思っている。
多くの人の心に響く何かがそこに残るということが大事。」
という言葉。
本当に美しいもの、正しい言葉、そういったものは必然的にそこに存在するという真理を見る気がしました。
霧となった無音のしぶきは、この夏の終わりに優しく私を包んでくれました。
写真は新宿三丁目駅構内に飾られた壁画「Water Fall」。
こうした作品は「パブリックアート」と呼ばれるが、千住氏の言葉を聞けば聞くほど、あらゆる芸術は本来パブリックであるべきものなのかもしれないと思わされる。
ちなみに「The Fall」は「落下」という意味で、アダムとイヴが楽園を追放されたという「墜落」の意を併せ持つとのこと。滝は「The Falls」。
公式HP http://www.hiroshisenju.com
美術館HP http://www.senju-museum.jp